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2022年12月5日のブログで紹介した「次世代の情報通信基盤NTTのIOWN」に関する情報第二弾です。
日本経済が「失われた30年」と揶揄される象徴として、NTTの「iモード」が日本独自のガラパゴス仕様だったことがいまだに取りざたされます。
今回の記事は、NTTが過去の教訓を生かして、国内外の有力企業と共に協力して次世代の通信基盤IOWNを世界のデファクトスタンダードにすべくスピード感をもって開発を進めている途中経過報告です。
以下、その当該記事のカット&ペーストです。
頑張れ日本!
NTTの未来通信基盤IOWN 米国で見た希望と課題
「ここにいる皆さんと未来を切り開いていきたい」
スッキリとした青空の広がる3月中旬のサンフランシスコ。NTTの米研究子会社NTTリサーチの五味和洋社長は、同社が開いた最新技術の展示・発表会「アップグレード2023」で来場者にこう呼びかけた。
NTTが2019年に発表した光技術を用いた通信基盤「IOWN(アイオン)」は、高速通信規格「5G」で中国の華為技術(ファーウェイ)などに大きく出遅れた日本勢の「いちるの望み」だ。日本で普及する光通信回線も、世界を見渡せば未導入地域は広い。開発中の最新技術を用いると、伝送容量は従来の光ファイバーの125倍、従来の通信網に比べて遅延も200分の1、電力効率も100倍になるといい、30年ごろに導入される見通しの6Gで世界標準を目指す。
インフラ構築に必要な機器や回線といったハードウエアを製造しているわけではないNTT。構想を世界規模で展開していくためにインフラ構築は不可欠で、20年には構想に賛同する仲間を集める「IOWNグローバルフォーラム」を立ち上げた。NECや富士通といった機器メーカーをはじめ、米インテルや米エヌビディアなどの半導体メーカー、自動運転時代を見越してトヨタ自動車などユーザー企業も参加し、参加企業・団体数はすでに110を超えている。
米国での技術発表は、そんな同社の取り組みの認知度を高める狙いがある。技術展示会場では、遠隔地にある工場の産業用ロボットをほぼ遅延なく操作する技術のデモや、スマートシティにおける信号機を使わない交通制御技術の展示などが並び、来場者の興味を誘った。
IOWNの成功に米国市場は極めて重要だ。広大な土地を有する米国は都市部以外では光通信インフラがほとんど整備されていない。最大のユーザーとなるだろう米グーグルや米アップルなどのビッグテック企業も集積するため、米国で導入が進めば世界標準獲得という目標の達成が一気に近づく。近年、分断が進む米中関係も、同盟国である日本にとっては追い風だ。
発表は2日間にまたがり、技術展示と研究者による講演の2部構成で開かれた。印象に残ったのは、NTTの人材がグローバルである点。日本では知らぬ者はいないNTTといえども、米国ではほとんど知られていない。なぜ優秀な人材を集められるのか不思議に感じた。
とりわけリサーチは45人の研究員のほとんどが現地採用で、五味社長が「博士号を持つトップクラスの人材」と胸を張るように、優秀な人材を獲得している。量子コンピューター時代に役立つ未来の暗号を開発する暗号情報理論研究所(CIS)は、「世界一の研究所に成長した」と五味社長。最難関といわれる国際会議で採択された論文件数で22年、グーグルや米IBMを大きく引き離し1位を獲得した。
知名度低くても優秀人材を獲得できるワケ
人材を獲得できる要因の一つに、IOWNの発展に貢献する可能性のある技術領域に特化していることがある。リサーチの中にはCISのほかに、光をベースとした量子コンピューターなどを研究する量子計算科学研究所(PHI)と、人体のデジタルツインを生成して医療に役立てるといった技術に取り組む生体情報処理研究所(MEI)がある。いずれも大学などのアカデミア以外の研究機関の中で高い評価を得ている。
テーマ選びを研究者に任せる自由な風土も研究者から人気だ。大学に所属すると、研究費を稼ぐために補助金を申請したり企業と共同研究をしたりと、本来、自分のやりたいこととは異なる仕事に時間と労力を取られがちだからだ。給与も大学より「少し高い」(五味社長)水準に設定している。
グループ全体のグローバル化を推進する部隊も米国採用が多い点にも気が付いた。会場では、NTTブランドを世界に広げる使命を受けた担当役員やベンチャーキャピタルのトップ、M&A(合併・買収)後の社風の統合を専門に手掛けるコンサルタントなどに会ったが、いずれも米国で実績を積んだ人物だった。
構想を立ち上げた当時のNTT社長で現会長の澤田純氏の存在も大きい。発表会にも日本から駆けつけ、現場の人材を激励。グローバル化推進の立役者となった人たちが、NTTに入社するきっかけをつくったのも澤田氏だ。米国に進出する日本企業がまず抱えがちな問題が、英語でのコミュニケーション力。現地採用スタッフが多ければ多いほど交渉を有利に進められ、市場を開拓しやすくなる。米国市場を攻略しようとするNTTの本気がうかがえた。
連携や協議の時間をどう短縮するかがカギ
ただ、課題も見えた。NTTの戦略は、とにかく多くの仲間を募り、各社がIOWNの技術を搭載した機器やサービスを世に送り出し、オセロのコマをひっくり返すように現行の機器やサービスを切り替えていくことにある。だが、テック産業を中心とした米国企業のトレンドは今、他社との連携による水平分業よりも垂直統合型に傾いている。IOWNの戦略はこれに逆行しているように見える。
例えば米テスラは、部品メーカーからの調達は最小限に抑え、資材の調達から完成品の製造、はたまた車両の販売から保険に至るまでを自社で手掛けている。目的はただ一つ。その方が圧倒的に速く自社の方針を反映でき、引いては市場の獲得につながるからだ。
製造機能を持たないNTTに垂直統合の選択肢はないに等しいが、フォーラムを機能させようと努力している間にファーウェイのような垂直統合型の競合他社が現れて、市場をかっさらっていかないかが懸念される。
対策としてNTTは、特許を確実に押さえつつ、国際標準化機関への積極的な働きかけにも取り組む。23年1月には、国際電気通信連合(ITU)の電気通信標準化局長に、NTTの最高標準化戦略責任者(CSSO)を務める尾上誠蔵氏が就任した。
ただ、加盟企業が議論を重ねて標準化技術を決める慣習は欧州では一般的だが、米国では市場で自然と採用が広がった技術が結果的に標準となる「デファクト」のケースが多い。欧州で協議している間に米国では別の技術が標準となる可能性は残る。
日本企業が数多く参加するため「日の丸連合」と表現されることも多いIOWN構想。30年の普及までにそれほど時間もない。フォーラムにしても標準化にしても、連携や協議に必要な時間をいかに短縮するかが成否のカギを握りそうだ。
(日経BPニューヨーク支局長 池松由香)
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